登山が趣味ならエベレストでしょ

登山が趣味ならエベレストにも登ってみたいですよね。トレッキング開始からの詳細を写真と文章で紹介します。エベレストの写真が見たいだけの方も、エベレスト登山を考えている方も、是非ご覧ください。なお、山の名前等に誤りがある恐れがありますので、正確な情報はガイドブック等をご覧ください。

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ゴーキョのロッジ

ついに、ゴーキョに到着した。今日のトレッキングによる疲れよりも、まずは安堵が全身を包んだ。

まずはロッジ選び。右手の奥の方に、立派なロッジが見えるが、あれがゴーキョ・リゾート・ロッジだろうか。いかにも高そうだ。

野宿も覚悟していた今日の私には、どのロッジでも温もりを感じられるはずだ。それほど迷うことなく、村の入り口左手のロッジに宿泊することにした。

ここのロッジの食堂は、なぜか2階にある。昨日までなら面倒に感じただろうが、今は気にならない。トイレも遠かったがこれも嫌でない。ララヌードルもいつも以上に美味しく感じる。

十一日目はゴーキョ・リーへ>

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湖から音

足早にゴーキョへ向かう道中、どこからともなく鐘のような音が響いてきた。

チベット仏教の地であることから、鐘があっても不思議ではないのが、夜に鳴らすのもおかしいし、湖の向こうから聞こえてくるというのも妙である。

湖面をびっしり覆った氷が動いたり膨張したりして出る音か、空気が弾ける音だろうが、どことなく風流に聞こえた。

オーストラリア人の相棒に聞いても、まったく関心がないようだった。風流という感覚自体がないのだろうか。もっとも、遭難から脱出したばかりなのに、自然の音に聞き入り、風流に浸る私の方がおかしいのかも知れない。

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遭難マップ

タグナからゴーキョまでの遭難の軌跡です。

黄色いがルートで、赤いが誤って歩いた道です。


天気が良ければ、周囲の山々も見えたんでしょうね。チャドテン山(Chadoten)を目指して歩けば、いいと思います。

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北西の空が明るかった理由

これは後から冷静に考えた推測だが、ンゴズンバ氷河の西には北北西から南南東にかけて山脈が走っいるため、夕方の角度の低い日光はこの山脈にさえぎられていたと思われる。そして、山脈の切れ目があった北西の空だけが、ぼんやりと明るく見え、その北西の空を西と勘違いして、歩いていたと考えられる。

とは言え、100m先も見えないほど天候が悪化していなければ、こんな事態にならなかっただろうし、午前中だったら、じっくりと渡りきることも可能だったと思われる。

チョラ・パスやカラ・パタールを乗り越えたことで、「過信」が生まれた可能性を否定できない。(皆さんもご注意ください)

ただ、1つ良かったことを挙げるなら、オーストラリア人の相棒1人に、ゴーキョへ行かせなかったことだろうか。驚くことに、彼は、コンパスも地図も持っていなかったのだ。

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確信

興奮気味に喜んでいた相棒とは裏腹に、私にはまだ不安が残っていた。道は正しいだろうが、この湖はどの湖か。

というのも、ゴーキョの手前には3つの湖があるが、ゴーキョを過ぎてからも湖が2つある。氷河で歩いた距離というのは、蛇行しているため時間の割に大した距離ではないと思われるが、ゴーキョの奥の湖にたどり着いた可能性も完全には否定できないからだ。

取り敢えず、ゴーキョの南に出たと仮定し、北に歩き出した。道が良いからか、気持ちが楽になったからか、二人の足取りは転がるように速かった。

そして、2つ目の大きな湖にたどり着いたところで、ようやく私も確信できた。さっきよりも大きい湖がここにあるということは、ゴーキョの村はこのすぐ北にある。

ようやく私も「Big Day」と言うことができた。

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氷河からの脱出

さらに西へ進むべく、丘と丘の間に分け入った。この辺りから岩が減り、草木も見え始めた。

薄々と、氷河を抜け出たことを理解していたが、相手をぬか喜びさせることはできない。

さらに西へ進むと、ひらけた場所にたどり着き、はっきりした道も発見できた。そして、何より湖がすぐ隣にあった。

もう、お互いに理解していた。氷河を脱出したと。

オーストラリア人の青年は、興奮気味に「Big Day」と繰り返し叫んでいた。

時計に目をやると、まだ6時台だった。十分ゴーキョまでたどり着ける。

未だ、ゆっくりできる状況ではないのだが、もう一度、コンパスを覗き込んで、静かに感謝した。やっぱり、このコンパスは正しかった。

決して高級品ではないこのコンパスを、私が最後まで信じられたのは、これがプレゼントの品だったからかも知れない。

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遭難脱出の判断

歩きやすい道からルートを探ることは、この状況では深みにはまる恐れもある。

そこで私が提案したのは、コンパスを信じ、ひたすら西に進むこと。

もし、コンパスがおかしくなっていたとしても、真っすぐ進みさえすれば、北でない限り氷河を抜け出せるはずだ。氷河を抜け出さえすれば山が見え、山が見えさせすれば、周囲の地形から現在地を知ることも可能なはずだ。相棒も私を信じてくれた。


氷河の地形はいびつである。山のような高低差はないが、視界をさえぎるには十分な壁になっている。ひたすら西に進むというのは、この壁をも強引に乗り越え続けるということである。

こんな時、他の人は何を考えるものかは分からないが、この時の私は「魁男塾」の1回目に出てきた「直進行軍」を思い出していた。オーストラリア人には分かろうはずもないが。

そんな「直進行軍」で西に進んでいると、やがて1本の道らしき道を発見できた。南北に続いている道だ。今までよりもはっきりとした道であるし、何より糞も見えた。人が家畜と通った可能性が高い。

ゴーキョへ続く正しい道にも見えたが、それならば直ぐ西に山か湖が見えるはずである。相棒の意見も待ってみたが出ないようなので、私の意見を実行した。

この道はルートではない。さらに西へ。

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遭難中に考えること

不安を煽る言葉は口にしなかったが、頭の中では色々なシチュエーションを想定していた。


真っ暗になったらどうするか。

雪が酷くなったらどうするか。

暗くても天候が回復すれば、辺りの山まで見えるだろうか。

退き帰す道が分かるだろうか。

2人が多少離れて歩いた方が、ルートを発見しやすいだろうか。

野営するなら、どんな場所がいいか。

着込めば、ツェルト(簡易テント)がなくても寒さに耐えられるだろうか。

体力を使うことと寒さに耐えることと、どちらが危険か。

自分の分の食料と水分はあるが、相棒はどうか。

私と相棒とどちらかの体力がなくなったらどうするか。

お互いの意見が分かれたらどうするか。

死を覚悟した場合、遺体が発見されやすい場所で死んだほうがいいだろうか。


行くにしても、引き返すにしても、野営する場所を探すにしても、決断するのは今しかない。彼の判断力を評価してはいるが、このような状況で的確な判断を下せるのは自分の方だと思った。

その決断とは。